ちくま文庫の『動物農場』を読みながら、2Q14年を思う

※読書記録、『動物農場』(ジョージ・オーウェル、開高健訳、ちくま文庫)

全ての革命は必ず腐敗する。素朴な寓話スタイルだけに、頭をがつんと殴られたように身に染みた。お話はシンプルだ。暴虐な農場主ら人間たちを追い出すことに成功した家畜一同。だが、指導層となった豚たちが「平等原則」を徐々に、決定的にねじ曲げていき――。ロシア革命とその後のソ連などがモチーフとなっているようだ。

腐敗の予兆は「革命」翌日、早くも、静かに示される。絞りたての牛乳がこつぜんと消えるのである。《動物たちは(略)夕方、戻ってきてみると、ミルクは跡形もなく消えていた》。さて、誰のお腹に収まったのか。

ルールは指導層の都合の良いよう恣意的に改変されていく。《(略)掟を読んでもらった。「いかなる動物も、理由なくして他の動物を殺してはいけない」どういうわけか、一節、みんなの記憶が欠落していたのだ》。知らぬ間に「理由なくして」と加筆されていたのだが、もはや以前の条文を誰も思い出せない。

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この1冊、昨年9月に再編集の上、新刊として出版された。翻訳が、かの開高健である上、「G・オーウェルをめぐって」と題した氏の解説が丸々後半を占める。

開高氏いわく、《これは左翼、中道、右翼を問わず、一切の政治的独裁、あるいは革命というものの辿る運命を描いている。(略)一切の革命のときに登場する諸人物、役割、それらが全部描いてある》。なるほど、と唸る。

今年を振り返ったとき、ウクライナでの三つの場面を思い出さずにはいられなかった。キエフでの政変、クリミア半島のロシア編入と東部2州の独立宣言。当初の熱狂と、その後の停滞とを。

開高氏は日本にも触れる。《日本の場合はやはり自然があまり厳しくないのと同じぐらいに、政治的闘争もさほどの酷烈さはない。日本人なりに酷烈ですけれど、でも諸外国と比べると酷烈ではない》

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さて、今年はオーウェルのもう一つの代表作『1984年』の世界から、または、村上春樹の長編小説『1Q84』の世界から、30年後の2014年である。

《好もうが好むまいが、私は今この「1Q84年」に身を置いている。私の知っていた1984年はもうどこにも存在しない。今は1Q84年だ。空気が変わり、風景が変わった》

『1Q84』の序盤にこんな一節がある。これを引用して今年5月、とある機会に、こうもじって書いてみた。

《好もうが好むまいが、私は今この「2Q14年」に身を置いている。私の知っていた2014年はもうどこにも存在しない。今は2Q14年だ。空気が変わり、風景が変わった》

そして、末尾に《ウクライナの2014年は消滅し、2Q14年になった。どんな展開でもありうると身構えている》と書いた。その後に起きたのが、マレーシア航空機撃墜事件であり、ウクライナ東部の紛争では既に4000人以上が死亡した。

来年もやはり、《どんな展開でもありうると身構え》るしかないのだろう。

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