戦後間もない大阪。街に活気はあるが、大人の中には戦争の傷跡が生々しく残る。物理的にも心理的にも。戦後を生きる幼い子供たちも無縁ではいられない。うどん屋の子と、船の子の出会いと別れ。泥の河は大阪中心部を滔々と流れる。
開高健の『日本三文オペラ』とは時期的に近いだろうか。
《朝陽が川面でぎらついている 。その隅の黒い影の中に舟の家があった 。倉庫や民家や電柱の輪郭を克明に描きながら 、影は舟を乗せて揺れていた》
《湊橋のたもとから細い道が落ちていた 。それはかつてそこにはなかったもので 、舟に住む少年の一家が作ったに違いなかった》