読書記録『泥の河』(宮本輝、新潮文庫)

戦後間もない大阪。街に活気はあるが、大人の中には戦争の傷跡が生々しく残る。物理的にも心理的にも。戦後を生きる幼い子供たちも無縁ではいられない。うどん屋の子と、船の子の出会いと別れ。泥の河は大阪中心部を滔々と流れる。

開高健の『日本三文オペラ』とは時期的に近いだろうか。

《朝陽が川面でぎらついている 。その隅の黒い影の中に舟の家があった 。倉庫や民家や電柱の輪郭を克明に描きながら 、影は舟を乗せて揺れていた》

《湊橋のたもとから細い道が落ちていた 。それはかつてそこにはなかったもので 、舟に住む少年の一家が作ったに違いなかった》

読書記録『砂のクロニクル』(船戸与一、小学館文庫)

【読書記録】「砂のクロニクル」(船戸与一、小学館)

イスラム革命から十年程後のイランを舞台とした冒険小説。革命保持に身を捧げる革命防衛隊員、クルドのゲリラ、武器商人の日本人、世捨て人の日本人ーーと四人の物語が交錯する。カスピ海を挟むソ連も舞台に。濃厚な…

イランやクルドについて、さらにはカスピ海をとりまく諸地域について関心を深める入り口として適しているだろう。紛争の中にある人々へ思い馳せるよすがにも。

《中東では通りの名称はしょっちゅう変更される。革命ではなく、ただの政変ですらむかしの呼び名がまず蹴っ飛ばされるのだ》821

《イラン革命は世界史上、類例のない革命だった。アメリカ合衆国とソヴィエト連邦を同時に狙い撃った革命がこれまでどこにあったろう? イスラム教の全的な復権というテーゼのみがそれを可能にしたのだ》913

https://www.shogakukan.co.jp/books/09406050