四年に一度の機会なので、最終日に覗きに行った。モスクワで音楽を聴くのはたぶんこれが初めてだ。世界有数のコンクール。文字通り、若い音楽家の人生を決める舞台だから、本気の演奏に間違いない。
ピアノ。16歳のロシア人少年。演奏中、見上げるたびに澄んだ目の光が飛ぶ。やや力強すぎるほどの打鍵。頬は少し赤く、緊張と恍惚が見てとれる。見守るようなオーケストラ。ピアノ越しに覗く指揮者の両脚と、その踏み込む動き、音。会場一体となった集中があった。
地下鉄で転戦。
バイオリン。一人立って演奏する佇まい。その影。天井桟敷から見ると、オーケストラは茶色の甲虫の群れだ。触覚を忙しく動かし、音色を奏でる。若はげのソリストが正確さを求める弓さばき。適切な力強さ。喝采。いっそ憂鬱をすべて削り去って欲しかった。