人類最初の宇宙飛行士・ガガーリン(その2)―”Земля голубоватая”「地球は薄青かった」

ガガーリンといえば、誰もが「地球は青かった」でしょ、と思う。日本では。だが、ソ連、ロシアでは違う。

出発に際して彼が大声で言った、

“Поехал!” (「パイェハル!」=出発!)

これが有名なのだという。古い方のテキストにも「今では子供たちみんなが知っている」とある。

一方、二つのテキストをいくら探しても「地球は青かった」のセリフはない。せいぜい「地球を見ています。とても美しい」といった言葉があるくらいだ。

この謎について検索して調べていたら、以下のブログにて的確かつ詳細に謎解きがされてあった。

『今日も星日和』
http://hoshi-biyori.cocolog-nifty.com/star/2008/04/80_8301.html

それによると、宇宙飛行翌日の日本の新聞各紙では、「ガ少佐語る 空暗く地球は薄青く」(毎日新聞)といったぐあいに「地球は薄青かった」。

ガガーリンが帰還後にソ連の記者に語ったという次の言葉の直訳だ。

“Земля голубоватая”

「Земля」は大地。ただし、冒頭の「З」が大文字だと地球の意味だ。形容詞「голубой」(空色の)に「-оватый」(やや……がかった)を加えている。だから、薄青い。なるほど色合いをおそらく正しく描写した表現だが、日本語の語感においては中途半端さを否めない。

これがやがて、「地球は青かった」に転じていくにあたり、週刊朝日・臨時増刊号「ガガーリン&宇宙開発特集」(1961年5月発行)が大きな役割を果たした、とブログの筆者はみている。

大々的に見出しで「地球は青かった」とうたっているからだ。さらに、朝日新聞社から1961年にガガーリンの自著が『地球の色は青かった』の題で出版されたという。

ロシア文学者で東京外語大学教授の沼野恭子氏のブログには、ガガーリン自らの記述が原文と共に紹介されている。そこで彼が連想したロシア人画家、ニコライ・レーリヒの絵はモスクワやペテルブルグの美術館で観ることができるようだ。そういえば、ラトヴィア国立美術館で鑑賞したのを思い出した。

以下、抜粋引用する。

http://www.tufs.ac.jp/blog/ts/p/nukyoko/2011/06/post_24.html

ユーリイ・ガガーリン は、『 Дорога в космос 宇宙への道 』という著書の中で、宇宙から見た地球の姿をこう描写している。

Лучи его (Солнца) просвечивали через земную атмосферу, горизонт стал ярко-оранжевым, постепенно переходящим во все цвета радуги: к голубому, синему, фиолетовому, чёрному. Неописуемая цветовая гамма! Как на полотнах художника Николая Рериха!

「やがて地球の大気をとおして太陽の光線がもれてきた。地平線上が明るいオレンジ色に輝きはじめた。空色、青色、すみれ色、黒と移りかわる七色の虹のかぎろい。とても言葉にはつくせない色の諧調! まるでニコライ・レーリヒの絵を見るようだ!」 『宇宙への道』江川卓訳(新潮社、1961)

地球は虹色だった、か。

ニコライ・レーリヒの絵。ラトヴィア国立美術館のパンフレットより

“Дорога в космос”の全文は以下のサイトで電子テキスト化されている。
http://militera.lib.ru/explo/gagarin_ua/index.html

(続く)

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人類最初の宇宙飛行士・ガガーリン(その2)―”Земля голубоватая”「地球は薄青かった」」への2件のフィードバック

  1. まえてつ 04/11/2012 / 16:41

    俺もパイエハリ!がガガーリンの言葉とロシア人に知れ渡っていることにびっくりしました。しかも転じて飲み始めでパイエハリ!を使うのが面白かったな。

  2. manosaku 04/11/2012 / 18:44

    なるほど、飲み会で使うのね。そうか、ガガーリンは一人だったから「パイエハル!」(完了体単数過去形)だけど、飲むときは何人もいるから「パイエハリ!」(完了体複数過去形)なのか。

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